技術とコンテンツ / Technology and Contents

東京大学工学部 機械情報工学科

令和6年度(2024) 開講概要

映像, メディア , コンピュータ・グラフィックス・デザイン, 建築設計など, 理系文系を問わず技術とコンテンツの両方に何らかの関わりがある, さまざまな分野でご活躍の方々から , オムニバス形式でお話をうかがう.

講義は遠隔開催とし,Zoomでおこなう.講義に対する質問もZoomのチャットで受け付ける.参加用のZoomのアドレスはUTAS/UTOLを参照のこと.

X(旧Twitter)での公式ハッシュタグは#技術とコンテンツ(講師がSNS投稿にNGを出さない回については積極的な投稿を期待しています.)

評価方法

全13回の講義中, 8回以上出席した者を有資格者として, レポートで評価を行なう.レポートの締切,内容についてはオムニバス最終回にて告知する.

担当

日時・場所

日程・講師

第1回
4月 10日(水)
葛岡 英明
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
「技術とコンテンツ」
講義全体の概要,オンライン講義と出席登録の方法等,およびCSCW (Computer-Supported Cooperative work)とコンテンツ研究について紹介する.
第2回
4月 17日(水)
池松 香
LINEヤフー研究所 上席研究員
"Sensing and Interaction Techniques for Smart Devices"
スマートフォンなどの個人向け端末に搭載されているセンシング機構を活用したインタラクション手法について,研究事例を通じて紹介する.

略歴: 2019年お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士課程修了. 博士 (理学). 2019年よりヤフー株式会社 Yahoo! JAPAN研究所 (現: LINEヤフー株式会社 LINEヤフー研究所) 特任研究員.主任研究員を経て,2021年 上席研究員. 2020年より東北大学 電気通信研究所にて助教を兼任. Human-Computer Interaction (HCI) を専門とし, 特にスマートデバイスの入出力インタフェースの研究に従事.

第3回
4月 24日(水)
谷 淳
沖縄科学技術大学院大学 教授
「自由エネルギー原理で作動する認知脳ロボット 」
30年以上、認知脳ロボティクスといった、人間の認知・心のメカニズムについて、それをロボット上に再構成し、それらの理解を目指す研究を続けてきた。研究における主要な問いは、如何にして世界についての理解、暗黙知は行為の経験の繰り返しから、発達的に抽象度を上げながら学習獲得されていくのか、また他者の心を読みながら、他者と自律的に相互作用していくことを可能とする社会認知能力はどのように獲得されていくのか、更に、意識および自由意志といった現象はどのように説明できるのか、などである。今回、上述の研究動機に基づきこの10年程取り組んできた、自由エネルギー原理で作動する認知脳ロボットに関する実験研究から得られた、幾つかの興味深い結果を紹介する。

略歴:1995年、工学博士号を上智大学から授与される。1981年より千代田化工建設、1993年よりソニーコンピュータサイエンス研究所(株)の研究員、2001年より理化学研究所脳科学総合研究所のチームリーダを歴任し、2012年よりKorean Advanced Institute of Science and Technology (KAIST)の電子工学科教授に就任する。現在、沖縄科学技術大学院大学に教授として勤め、認知脳ロボティクス研究ユニットを主宰する。また2018年よりミュンヘン工科大学客員教授を務める。認知ロボット、脳科学、複雑系、発達心理、現象学等の研究に興味を持つ。2016の秋に自著、“Exploring Robotic Minds: Actions, Symbols, and Consciousness as Self-Organizing Dynamic Phenomena."をオックスフォード大学出版より出版した。賞罰特に無し。

第4回
5月 1日(水)
下西 竜二
OTAGROUP株式会社 代表取締役

ひろこ
メタばあちゃん
「後期高齢者VTuber「メタばあちゃん®」から考えるテクノロジーとウェルビーイング」
85歳のVTuberとして2022年12月にデビューをした祖母の変容からテクノロジーはどのようにウェルビーイングに寄与するかを考える。

下西 竜二 略歴:1994年広島県三原市生まれ。VTuberなどのエンタテインメントコンテンツをプロデュースしている。後期高齢者VTuber「メタばあちゃん®」では自身の祖母をプロデュースし、週刊朝日「2023年100人の顔」に選出される。世界経済フォーラム(ダボス会議)により組織されるU30の団体にてグローバルシェイパーとしても活動。

第5回
5月 8日(水)
中嶋 浩平
東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授
「タコ腕計算機:やわらかいマテリアルの情報処理能力について 」
Reservoir Computing (RC)は、リカレントニューラルネットワークの研究により発展してきた機械学習法・情報処理手法の一つである。この手法では、ネットワーク内部の結合を調節せずにリードアウトの結合のみを最適化するため、任意の大自由度力学系を情報処理に活用することが可能となる。この点に着目し、近年、物理系のダイナミクスを情報処理デバイスの一部として活用する手法である、Physical Reservoir Computing (PRC)の研究が盛んに行われている。この技術は、物理系自体のダイナミクスが計算資源として活用できるため、エネルギー効率の向上ならびに計算労力の削減が期待され、次世代ニューロモーフィックデバイス技術として注目を集めている。本発表では、特に、この技術がやわらかいマテリアルでできたロボット(ソフトロボット)と組み合わされるとき、極めて有効に、その物性特有の威力を発揮することを見ていく。特に、タコ腕計算機の実装例を通して、やわらかいマテリアルの多様なダイナミクスは、それ自体が計算機として活用でき、制御を埋め込むことができることを示す。また、より一般的な見地から、PRCの手法の可能性についても議論する。

略歴:2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。以降,チューリッヒ大学、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)にてポスドク、JSPS海外特別研究員を経て、2014-17年まで京都大学白眉センターにて特定助教。また、2015-19年までJSTさきがけ研究員(兼任)。2020年より,東京大学大学院情報理工学系研究科にて准教授。専門は非線形力学系、(物理)リザバー計算、身体性ロボティクス、ソフトロボティクスなど。

第6回
5月 22日(水)
笠原 俊一
ソニーコンピューターサイエンス研究所(SONY CSL) リサーチャー / Superception プロジェクトリーダー / 沖縄科学技術大学院大学(OIST) 客員研究員
「Cybernetic Humanity」
人間とコンピュータが融合した時、自分はどこまで自分か。今やコンピュータは単なる道具ではなく、我々の身体や行動に深く介在しています。人間がコンピュータと融合し、人間本来を超えた能力や異なる身体を獲得する時、自分はどこまで自分であるのか。私は「Cybernetic Humanity」という、人とコンピュータが融合することで生み出される新たな人間性を提唱し、コンピュータ科学と人間科学の両側面からアプローチして探求しています。人間とコンピュータが融合することでもたらされる知覚認知や身体能力の拡張と、私たちの「自己」を構成する主観性の解明、そして人間とコンピュータが融合して織りなす人間性のダイナミクスを、多角的に研究していきます。今回は、これまでと最新の研究事例を交えて紹介しつつ、「体験」を通じて研究をするプロセスに関しても触れる予定です。

略歴:博士(学際情報学)株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL) リサーチャー、Cybernetic Humanity プロジェクトリーダー、沖縄科学技術大学院大学(OIST) 客員研究員。2017年東京大学大学院情報学環博士課程修了。2008年ソニー(株)入社後、MIT media lab 客員研究員等を経て、2014年よりソニーコンピュータサイエンス研究所にリサーチャーとして参画。 人とコンピュータが融合することで生み出される"新たな人間性 : Cybernetic Humanity"を主題として、コンピュータ科学と人間科学の両側面からのアプローチを通じて探究。研究成果はコンピュータグラフィクスやHuman-Computer Interactionの主要国際会議やテックカンファレンスでの発表に加え、研究の体験化作品の展示・テクノロジーの社会実装を行う。2023年よりソニーCSLとOISTの共同研究の一環でCybernetic Humanity Studioにて活動する。

第7回
5月 29日(水)
奥田 透也
インタラクションデザイナー
「喜びを生み出すインタラクション」
おそらくこの講義を受講される方の多くが、何かを探求し、何かを世の中に生み出そうとしておられるのだろうと思います。私はインタラクションデザイナーとして、新しい体験を日々考え、世の中に生み出そうとしています(足掻いているというほうが正しいかも知れません)。この回ではインタラクションとは何か、インタラクションがどう人に作用するのか、そしてどのようにインタラクションを設計しているのかについて、いくつかの仮説・モデル・実例を交えてお話しします。この時間が皆様の探求の一助になれば幸いです。

略歴:2008年、修士(情報機械システム工学専攻)。2008〜2012年、tha ltd. 等にて様々なUIやインタラクティブなウェブサイト制作に従事。2014年〜現在、THE GUILD ファウンダー、多摩美術大学統合デザイン学科 非常勤講師。

第8回
6月 5日(水)
澤邊 芳明
株式会社ワントゥーテン 代表取締役CEO
「クリエイティブ目線での空間DXの変遷と展望」


略歴:1973年東京生まれ。京都工芸繊維大学入学後、18歳の時にバイク事故に遭い、手足が一切動かない状態となる。復学後、24歳で創業。XRとAIに強みを持ち、総勢約130名からなる近未来クリエイティブカンパニー1→10(ワントゥーテン)を率いる。東京五輪では、組織委員会アドバイザーを務め、メダルデザイン審査員や複数のスローガン作成を行った。歌舞伎座史上初の完全完売となった市川海老蔵のイマーシブプロジェクションマッピング演出、ボリュメトリックビデオ技術を活用した世界初バーチャル歌舞伎のLIVE配信、世界遺産・元離宮二条城でのAIを組み合わせた巨大ランドプロジェクション、「2020年ドバイ国際博覧会」バーチャル日本館などのデジタルシフト施策、人型ロボットPepperの言語エンジン開発、ソードアート・オンラインやドラゴンクエストといった人気IPのVRコンテンツ開発など、数々の先進的なプロジェクトを成功させる。自身の体験から、現実と仮想空間を横断し、あらゆる人々が自由に知性を拡張できる未来の実現を目指す。

役職
・大阪関西万博 TEAM EXPO 2025スタートアップ ブーストプロジェクト プロジェクトリーダー
・一般社団法人Metaverse Japan/アドバイザー
・一般社団法人日本ボッチャ協会 /代表理事
・公益財団法人日本財団パラスポーツサポートセンター/顧問
・公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会/アドバイザー
・東京2020大会入賞メダルデザインコンペティション審査会メンバー


第9回
6月 12日(水)
飯塚 博幸
北海道大学 人間知・脳・AI研究教育センター 准教授
「人工生命:知の構成論的アプローチ」
人工生命は、コンピュータをはじめとする人工物を用いて、我々が知る生命とは異なるあり得る生命を思考したり、創造したりすることで、生命を理解しようとする学問分野です。本講義では、まず「あり得る生命」という視点から、人工生命研究の基本的な考え方と基盤となった過去の研究について概観します。次に、人工生命の考え方に基づいて、いかに生命のための知性を構成論的に理解できるのかについて紹介します。そしてこれらに関する最近の研究について紹介します。最後に、最近最も興味をもって行っている、自他重ね合わせメカニズムによる自他分離や視点獲得についてのシミュレーション研究について紹介し、人工生命研究の意義と可能性について、一緒に考えたいと思います。

略歴:2004年, 東京大学総合文化研究科博士課程修了. 2005年, 日本学術振興会特別研究員(PD, はこだて未来大学), イギリスサセックス大学客員研究員. 2008年, 大阪大学大学院情報科学研究科助教. 2013年, 北海道大学大学院情報科学研究科准教授. 2024年より, 同大学人間知・脳・AI研究教育センター 准教授. 専門は人工生命, 複雑系科学, 認知科学. 博士(学術).

第10回
6月 19日(水)
加藤 淳
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 主任研究員 / アーチ株式会社 技術顧問
「道具鍛冶とクリエータ」
コンテンツ制作には道具が必要です。ただし、制作現場のクリエータから見ると、コンピュータを用いた道具の多くは、遠く離れたところで研究開発されています。アナログの道具と比べると、手になじむようカスタマイズすることも容易ではありません。こうした道具はHuman-Computer Interaction分野では創造性支援ツール(Creativity Support Tools)と呼ばれ、盛んに研究されてきましたが、前述のような社会構造的・技術的課題は未だ解決していないどころか、見方によっては複雑化し悪化しています。本講演ではそうした課題へのアプローチの一つとして、私が「道具鍛冶」として研究・開発・運用してきたツール群を紹介し、将来展望を議論します。例えば、リリックビデオ制作ツール「TextAlive」や、新たに提案したメディア様式「リリックアプリ」とその開発用フレームワーク、「初音ミク『マジカルミライ』」で史上初めて開催されたプログラミング・コンテスト、アニメ制作において設計図と称される「絵コンテ」の制作・利活用のためのツール「Griffith」などに触れる予定です。

略歴:博士(情報理工学)。2014年より国立研究開発法人 産業技術総合研究所研究員、2018年より同主任研究員。同年よりアーチ株式会社技術顧問を兼務。 Human-Computer Interaction全般、とくにクリエイタ・プログラマ向けの創造性支援研究に取り組む。技術移転にも積極的に取り組み、複数の創造性支援ツール・サービスを開発、運営。ACM CHI 2013/2015/2023 Honorable Mention Award、IPSJ/ACM Awardなど受賞多数。 https://junkato.jp/ja

第11回
6月 26日(水)
伊藤 亜紗
東京工業大学 未来の人類研究センター長
「身体が作りだすバーチャル・リアリティ」
バーチャル・リアリティというと、テクノロジーが作りだすものと思われがちですが、人間の身体そのものが作りだすバーチャルリアリティもあります。事故や病気で手や足を切断した人が感じる「幻肢」や、全盲の人が聴覚情報などを手がかりに作りだすイメージなどがそれです。こうしたいわば「天然の」バーチャルリアリティについて、さまざまな障害や病の当事者の語りや、西洋絵画における画中の人物と鑑賞者の関係など、幅広い事例に即して考えます。

略歴:2010年東京大学人文社会系研究科基礎文化専攻美学芸術学専門分野博士課程単位取得退学。同年、博士号を取得(文学)。主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『記憶する体』(春秋社)、『手の倫理』(講談社)など。第13回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞、第42回サントリー学芸賞、第19回日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞受賞。
第12回
7月 3日(水)
溝部 拓郎
株式会社ポケットペア 代表取締役社長

中條 博斗
株式会社ポケットペア rリードネットワークエンジニア
「パルワールドはなぜ小さいチームで成功したのか。技術的側面からの分析」


溝部 拓郎 略歴:1988年生まれ、2012年東京工業大学工学部卒業。同年、新卒でJ.P.モルガン入社。同年、株式会社レジュプレス(現コインチェック)を創業。「ビリギャル」で有名となった「http://STORYS.JP」をリリースし、2014年、仮想通貨取引所コインチェックを提供開始。 2015年、株式会社ポケットペアを創業し、「オーバーダンジョン」や「クラフトピア」など人気ゲームを生み出す。 2024年1月にリリースした「パルワールド」は、発売から約5日間で700万本販売、約1か月で総プレイヤー数2,500万人を突破。

中條 博斗 略歴:Web 系エンジニアとしてキャリアをスタート。サーバー関連、メタバース関連、コンシューマ ゲーム関連の分野で活躍し、その後オープンワールド サバイバル クラフトゲーム『パルワールド』の開発に携わる。 同接 185 万人を支えるインフラを"ワンオペ”で支えた人物としてYahoo!ニュースに載る。現在もリード ネットワーク エンジニアとして同タイトルの開発、運用に従事している。 好きなパルはンダコアラ。

第13回
7月10日(水)
鳴海 拓志
東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授
「コンテンツがあなたを作る」
体験が人の感覚や行動,そして心や思考を変えていく影響について,VRやARでの研究の実例を通じて議論する.

略歴:東京大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻准教授.博士(工学).バーチャルリアリティや拡張現実感の技術と認知科学・心理学の知見を融合し,限られた感覚刺激提示で多様な五感を感じさせるためのクロスモーダルインタフェース,五感に働きかけることで人間の行動や認知,能力を変化させる人間拡張技術等の研究に取り組む.