私たちが「現実」と呼ぶものは、外界を脳の中にそのまま写しとったものではありません。感覚と身体、認知の状態、環境、共にいる他者、そして特段意識せずに使っているテクノロジーとの相互作用のなかで、その都度立ち上がってくるものです。
私たちは、現実やリアリティを脳が単独で「自己生成する(autopoiesis)」ものではなく、身体や環境、テクノロジー、他者と「共に生成する(sympoiesis)」ものと捉え直します。この観点を「共生成リアリティ(Sympoietic Reality)」と呼び、自己やリアリティが生まれる仕組みを明らかにすること、そしてその知見をもとに、人がよりよく生きるための工学的な技術や方法論を確立することを目指しています。ここでいう自己も、あらかじめ完成したものではありません。代謝や免疫から、感覚と運動、認知、社会的な関係、そして時間をかけて紡がれる物語に至るまで、さまざまなプロセスが互いに影響しあいながら保たれている開かれたネットワークです。私たちはこれを「共生成自己(Sympoietic Self)」と呼んでいます。
リアリティが立ち上がるプロセスに介入し、それを観察し、デザインするためのコアテクノロジーとして、私たちはバーチャルリアリティや拡張現実感の技術を中心的に扱っています。これらの技術を使うと、目に見えるもの、触れたもの、自分の身体の見え方を、条件をそろえて変えることができます。そのとき人の感じ方や行動がどう変わるかを調べることで、リアリティがどのように成り立っているかを確かめられます。
クロスモーダルインタフェースの研究では、感覚同士の相互作用からリアリティが生まれる過程を扱ってきました。ゴーストエンジニアリングの研究では、アバターという新たな身体によって自己のあり方が変化していく過程を扱ってきました。これらは別々のテーマではなく、「何と共にリアリティを生成するか」という同じ問いの異なる現れです。いま、この問いの相手にはAIも加わりつつあります。人がAIエージェントと共に考え、判断し、行動するようになったとき、自分で考えて選んでいるという感覚をどう保てるのか。私たちは、人とテクノロジー、そして人と人が共にリアリティをつくる仕組みを理解し、そのよりよいあり方をデザインすることに取り組んでいきます。